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日本のイノベーションのジレンマ

今回、皆さまにご紹介したい書籍は、玉田先生が著された『日本のイノベーションのジレンマ』です。初版は2015年ですね。ちなみに、僕が購入したのは2018年ごろです。

ちなみにイノベーションのジレンマに対する対策とされる本としては、この著作もしくは『両利きの経営』が僕自身最も分かりやすかったと感じています。

この本を著された玉田俊平太先生はハーバードビジネススクールに留学され、かの有名なマイケル・ポーター教授のゼミに所属され、競争力と戦略の関係性について研究され、クレイトン・クリステンセン教授からイノベーションのマネジメントについて指導を受けたそうです。凄いですね。まさにオールスター集結といった感じです。

玉田先生の名前を初めて聞いた人は皆、想像すると思いますがヨーゼフ・シュンペーターと同音の名前ですね(厳密に言うと、ヨーゼフが名前で、シュンペーターは苗字に相当しますが)。

ちなみに、ヨーゼフ・シュンペーターは『イノベーション』を定義した人として非常に有名な経済学者です。ちなみに、日本で現在跋扈している『組織は合理的に非合理的に変質していく』と言われることも言及されたことで有名です。下記のような言葉がwikipediaに記載されていました。

”資本主義は、成功ゆえに巨大企業を生み出し、それが官僚的になって活力を失い、社会主義へ移行していく”

まさに、現在の多くの日本企業が直面している状況ではないかと危惧しています。もし、皆さんの勤めている会社が当てはまらなければとても良い優良企業と言われるものだと思います。

イノベーションとは

イノベーションは、innovationという英語がもとになっている通り、何かを新しくするという意味があります。技術革新と訳されることもありますが、技術だけではなく、技術のみに限らず、サービスや情報などが普及することで生活様式が豊かになることを意味します。

クリステンセン教授がイノベーションには「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」の2つに分類して定義したことは非常にセンセーショナルな出来事でした。

持続的イノベーション

持続的イノベーションは理解しやすいと思います。一番短いに実感できるものだと思います。持続的イノベーションは、漸新的イノベーションと画期的イノベーションの二つに分かれます。これらを下のテーブルに示します。

漸進的イノベーション自動車用ガソリンエンジンの馬力や燃費の向上
冷蔵庫やエアコンの省エネ化
高炉による製鉄技術の進歩
画期的イノベーションLED電球
ハイブリッド自動車
音楽CD

LED開発やハイブリッド自動車の開発はとてもエポックメーキングだと思います。僕もそう感じています。イノベーションのとび幅はそれぞれ異なりますが、いずれも、今ある製品やサービスをより良くする方向に向かっていることが分かります。ここがとても大切な点です。

また、これらが得意な企業はいわゆる既存の大手企業であるということです。なぜなら、すでに良質な製品を世に送り出しているのですから。会社の組織もそうなるように必要なリソースを割り振りできるように形作られております。こうして、既存のリソースを最大限に活用できるように最適化された組織においては新たなことを実行することが難しくなる場合が多々あります。

破壊的イノベーション

これは、前述する持続的イノベーションに対して少し分かりにくいかもしれません。破壊的イノベーションにも2種類があり、新市場型破壊とローエンド型破壊とそれぞれ名付けられています。

新市場型破壊は、これまで製品やサービスを全く使っていなかった顧客にアピールするイノベーションを指します。

それに対して、ローエンド型破壊は、既存製品の主要性能が過剰なまでに進歩したために、性能と価格を落とすイノベーションを指します。

・無消費をターゲットにする新市場型破壊

新規事業を考えるときは、無消費をターゲットにすることをクリステンセン教授は良く言っていたそうです。これは、顧客が代替品や比較品が無いため、シンプル且つ安価な製品を受け入れやすくターゲットにしやすいためです。

この典型例として紹介されるのが、パーソナルコンピューターやハードディスクなどです。簡潔に述べると、1970年代のコンピューターの主流は大型コンピューター(メインフレーム)でした。これは、非常に高価で一般人がなかなか使えなかったようです。それらに憧れたコンピューター・マニアが自分で使える廉価なパーソナル・コンピューターをマイクロプロセッサの仕様書を読み部品をはんだ付けして作成していたようです。そこに商機を見出し、スティーブ・ウォズニアックとスティーブ・ジョブズが箱から座せばすぐに使えるコンピューターの販売を目指しました。それが今のAppleの原型だそうです。この後は、皆さんのご存じのとおり、長い期間の持続的イノベーションを経て、皆さまが使用しているパーソナルコンピューターとなっている訳です。つまり、誕生当初は電卓に毛が生えたようなオモチャでしたが、現在ではメインフレームの市場を「破壊」しつつあるのです。

余談ですが、上記の例からもいかにスティーブ・ジョブズがビジョナリーであったかが伺えます。自分の作った会社から追い出されて、再度戻ってきて復興させる姿など凄まじいものがあります。

・過剰満足な状態の顧客をターゲットにするローエンド型破壊

これは、20年ほど前に日本の家電で発生したような出来事ですね。既存製品の性能が過剰なまでに上がってしまい、多くの消費者が求める水準を超えてしまった状況です。

本書の例には、ティファールの電気ケトルが挙げられています。当時のポットは、非常に高機能でお湯を沸かすだけでなく、保温機能を何段階も兼ね備えており、水を浄化する活性炭や電気ポンプなど多機能であり1万円を超える値段でした。

これに対して、ティファールは少量のお湯を入れて沸かすだけの電気ケトルを比較的安価に市場に投入しました。この結果、2005年から2014年まで国内シェアナンバー1だったそうです。驚くべき事実です。過剰な機能や品質は、実は望まれていないこともあります。これは、ライバルを強く意識しすぎることで生ずることもあります。これは、かつての日本の携帯メーカーやビール会社も陥っていた事象です。差別化をし過ぎると全容が見えなくなりがちですね。物事には順序があって、新しいカテゴリーの製品ができた当初は顧客が望むレベルに到達していないのですが、ある領域に到達するとそれ以上の性能が魅力的でなくなるわけです。

上記を簡潔に図でまとめると下記のようになります(イノベーションのジレンマを一部改変)。

皆さん最も知りたいことは、ではどうやって破壊的イノベーションを仕掛けることが可能なのかだと思います。

これは、一朝一夕では難しいものです。一般的には、顧客が真に何を求めているか(用事、ニーズ)を把握することだと言われています。これが、本当に難しいです。特に、B2Bでは非常に苦労します。自分たちのレイヤーだけでは見えてこないことも多く、最終製品を見据えて見渡す必要があります。特に、上流の素材になるにつれて様々な使われ方をするので非常に苦労します。

新しいことができる環境づくり、組織の多様性、風通しの良さは前提条件として絶対に必要なことだと思います。発想の仕方では、発散と収束、ルールブレーキングなどを組み合わせて実施することが肝要だと思います。

どのように行うかについては、現在実施している内容は書けませんが、何でも自分で小さく初めて見ることをおすすめします。決して、部下に漫然とした指示でさせないでくださいね。自分でやってみて見えてくる部分がたくさん見えてきます。各社各人のおかれている環境やリソースが異なるので、自分で固めたところで自部署やその周辺へ広げていくことをおすすめします。

ぜひ、本書を読まれていない方は読んでみて実践してみて下さい。僕は、購入する価値のある本だと思います。

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